趣味が嵩じて仕事になることがある。夫の場合がそれだった。テレビ番組ではないけれど、家屋のリフォームを希望する顧客にリフォーム前と後のパースをパソコンで作成して、こうなりますよと視覚的に提示するのだ。その家の図面や資料はお預かりして、パソコンに落としておく。触ってはいけない柱、筋交いを増やしたい壁などが瞬時に判別出来るようにしておく。その上でどこをどうリフォームしたいのかを相談しながら明確にしていくのだが、リフォームするとこうなりますをパソコンで画像として瞬時に描けるようにしたのだ。
図面や設計図を見ても、素人には面白くも何ともない。でも自分たちの希望に応じて刻々と姿や景色を変える家の姿は面白くて、想像力を刺激するものなのに違いない。夫が「それは構造上、難しいですね」「そうすると、だいたいこんなイメージになります」と目の前で創り上げる世界に、興味津々で見入るのだから。図面上に引かれた線よりも、パソコンで創られる3Dの世界の方が分かりやすいのだ。
その日のお客様もリフォームの前と後を視覚的に確認して、ぜひこれでと念を押して大喜びで帰って行った。工事業者と電話で打ち合わせする夫にコーヒーを差し出す。コーヒーを口に運びながらも、夫の眼差しは真剣そのものだ。とうとう会って打ち合わせすることにしたようだ。私たちの小さな設計事務所も、中古の古民家を改装したものだ。土間と和室の大広間になっていた部分をフローリングにして、事務所として使用していたのだ。住居として使用しているのは離れの家屋で、2人暮らしには丁度良いコンパクトなサイズだった。
この建物を購入して事務所にすると告げられたのは何年前だったか。当時はCADの技術を駆使して、私の前に夫の描く世界を示したものだった。その言葉通りに出来上がった建物、植栽を見渡して私は改めて思うのだ。この人の創り上げる世界に、最初に引き込まれたのは私なのかもしれないと。ちょっぴり癪にさわるけれど。