No.92 わがままな条件でこだわりの郊外物件探し

「ここなんかどうでしょう?」不動産業者が言った。町中のゴミゴミしたところは好かない、山奥に1人きりは厭だが、ある程度の自然があるところで清々と住みたいのだ、傾斜地でも危険がないところなら構わない、それが私が提示した条件だった。「いっその事、別荘地で探すというのは?」それを受けて、業者は言ったものだ。

「別荘地は管理費とかかかるじゃないか。それよりも、都会の田舎的なところが良いんだよ」。わがままな条件なのかもしれない。里山暮らしに憧れているのかもしれなかった。「何も新築にこだわっているわけでもないんだ。中古でも耐震上問題がないのなら、リノベーションして住んでも良いし」長らく仕事をしてきて、ようやく時間に余裕が出来そうな身の上となった。妻には病気で先立たれていたし、一人息子は自分の所帯を持っている。ここから先は、自分のための時間だ。

そこは町中から車で少し走ったところにある、集落だった。周囲は木々に取り囲まれており、水のきれいな川がある。どこかで山羊の鳴き声がする。目の前に建っていたのは築年数の古そうな平屋で、今にも崩れそうだった。環境としては申し分ないが、私は心の中で秘かに呟く。業者が鍵を開け、中に入ってみる。黒光りする柱、梁。天井がとても高い。

「きちんと調べてみなければ正確なところは分かりませんが、基礎や土台は問題ないということです。ここをリノベーションしてみるというのはどうでしょう?悪くはないと思います」床のところどころが沈み込む。縁側に沿って、廊下が走っている。昔はこんな感じだったのだ。「廊下は要らないから、縁側をもう少し広く取りたい、デッキのように」業者がメモを取っていく。

「天井が高いので、一部ロフトを取り入れられるだろうか?あと畑をやるつもりなので、屋根のある作業場が欲しい」。業者が羨ましそうに私を見る、「晴耕雨読ですね」。「屋根は瓦はやめて、金属にしましょう。少しでも軽くしたいから」、この日初めて、私は頷いた。

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